東山の応接住宅

「応接間と床の間」

季節の変化や客人によって設えを変え、もてなす応接間や床の間。生活様式の多様化や間取りの合理化などにより応接間が住宅から消え、すでに私達には馴染みが薄い名前だ。その機能がカフェやギャラリーなど都市に放り出され長らく経つが、今一度応接間と床の間について再考してみたい。

築49年のRC造賃貸マンション一室を改修した自邸である。賃貸サイトで物件を探していた時に目を疑った。間取り図に、「洋室」と「LDK」と「コンクリート打ちっぱなし」の3室が記されていたのだ。しかも打ちっぱなし部分には丁寧にハッチも掛けられていた。LDKはあるから、はて、この打ちっぱなしの部屋の用途は何だろう?提供写真でも、天井、壁はもちろんのこと、床もはつったままのRCむき出しだった。前の住人は一体ここでどのように暮らしていたかの疑問だが、元々は和室が二間あったようである。地方の賃貸では珍しく、改修自由かつ原状復帰不要の条件で、内見し即決した。聞けば、数千件の登録の中でもこの条件の物件はここだけだったそうだ。

東京から移り住み、事務所兼自宅として使用していた。半年後に事務所を別で借りたため、事務所機能はなくなった後は納戸となり持て余していたが、ある時ここの新たな用途を考えてみた。もともと用途のない場所である。住むには広く、部屋も大きい、大人数が集まるのに良さそうだ。当初から事務所として人の往来があったことから、住居だけとなったときでも人を入れることに抵抗がない。応接間という言葉が浮かび上がった。

事務所時代の名残であったカーペットから畳へ改め、大勢の来客にも対応できる床座とした。天井には天井ボードを吊るための雌ネジがあることに気づき、試しにボルトを入れてみるとぴったりだった。いくつか追加してもらい、LGSで違棚をつくった。玄関には床の間様の下足入、キッチンはパーティー対応のカウンターなど、住みながら小さな改修を行った。今はここを、事務所主催のイベント会場として活用している。

用途不明の部屋は、事務所、納戸を経て、部屋の枠を飛び越えて家全体が応接住宅となった。時と場合に応じて、その人を思いながら飾り立てることは、人のつながりや生活の豊かさを教えてくれる。応接間ではその部屋だけが公共だが、この家では住宅全体が応接間だ。自分たちの手に応接という小さな公共を取り戻しつつ、逆に自分たちを公共にさらけ出したような感覚が面白い。今度は南北面両方が吐き出し窓のあるバルコニーに面していることから、畳からタイルに変えて、テラスルームにすることを考えている。

東山の応接住宅

所在地:名古屋市千種区
用途:住宅/ショールーム/イベントスペース
施工:平田建築
写真:ToLoLo studio
構造:RC造4F建ての3F
床面積:60㎡(改修部分)
設計期間:2019.9-2019.10
施工期間:2019.12