志摩の家

「造作の構造」

三重県志摩市のリアス式海岸に囲まれた国立公園内、手付かずの自然が広がる森の入口に敷地はある。施主は若い夫婦で家族は4人に増える予定だ。自称志摩の観光大使のご主人がたくさんの人を招き、自然の空気を感じながら志摩を楽しみ好きになってもらう場所が求められた。

2014年から志摩の医師と継続的に続けている「志摩ドクタープロジェクト」がある。その発端は、病院に来るインターン学生の寄宿舎を作りたいというものだった。当時インターン学生はホテルに泊まるしか方法がなく、ホテルと病院を往復していた。志摩をよく知ることなく、就職先として志摩を選択し辛い状況にあった。そこで寄宿舎があればとの院長の思いで提案したのが始まりだった。それから6年。公営でこそないが、想いは紡がれ、個人の力で住宅でありながら寄宿舎のような、観光センターのような、民宿のような場所が出来上がった。

施主の要望から紡ぎ出された希望の欠片達は、建築にはまだならない理想の出来事とそれに必要な家具があれば成り立つようなものだった。そこでこの森の中で造作をばらまいた。あえて造作と言ったのは、施主任せの家具ではなく、共に考え計画的に作り出したものだからである。

さて構造という言葉には、耐震構造のような、全体を形づくっている種々の材料による各部分の組み合わせや仕組みと、社会構造や物質の構造などの、様々な要素が相互に関連しあって作り出されている総体やその相互関係を示す意味もある。志摩の家は、後者の構造を作り出した。もちろん木造軸組構法の構造を用い、構造体である柱梁が室内に見えているのだが、それは単に表面的なもので、出来事と造作を起点に、床壁屋根ができ、建物の形が見え、行動を促し、そこに住む人や訪れる人の振る舞いがあり、生活のあらゆる要素が混ざり合って、この志摩の家は出来上がっているという点で、建物の骨格以上の構造を作っていると思う。構造といえば架構の美しさや新しさが注目されがちだが、そうではない捉え方を考えたときに造作から生み出される構造に行き着いた。それは細胞が集まって生物ができているように、各々独立したものでありながら一体となる物を作り出している、生きた構造だ。用途は構造に寄り添って導かれる。構造にもなりうる造作のまとまりが、建築になることに気づいた。

名称:志摩の家
所在地:三重県志摩市
用途:住宅
構造設計:海野構造研究所
ファブリック:fabricscape
施工:山口工務店
写真:ToLoLo studio
構造:木造
階数:2階
延床面積:182.61㎡
設計期間:2018.4-2019.6
施工期間:2019.7-2020.3

掲載:
新建築住宅特集2020年9月号
architecturephoto
毎日放送 「住人十色」 2020.12.15放映
※すでに放映は終了していますので、ご覧になりたい方はフォームより問い合わせください。

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モダンリビング2021年9月号

受賞:
日本空間デザイン賞2020 Longlist
グッドデザイン・ベスト100