鈴でなる鐘
鈴でなる鐘 「アーツ・チャレンジ2019 」選定作品
愛知芸術文化センターで行われた若手芸術家を対象とした冬の短期間の展覧会である。敷地は 8人のアーティストが指定された場所から選ぶことができる。我々は、唯一の外部空間である 10 階屋外庭園を選択した。
外部に展示すること、2月という寒さの厳しい条件の中、人々を外に連れ出す作品を目指し、 製作した。一般的にアート作品を外に展示することは天候の影響が大きく作品の維持管理が外部環境に左右される。また、2月といった寒さの強い時期であることなどの不利な敷地の特徴をネガティブな要素と捉えることなく、その特性を生かした作品を提案した。
私達は、視覚的に伝わる作品の美しさや綺麗さと同等以上に、「鐘を鳴らす」という体験に着目して設計を行った。鐘を鳴らす行為は神社や寺、チャペルなどの祝祭の場で行われ非日常性をもたらし、気持ちの切り替えを促す。小さな鈴の集合は、人を包み込み、ふわりと揺れる柔らかな鐘となり、外的な見た目の楽しさをつくる。加えて、人が触れ音を発し、新しい気持ちの発見や自浄効果を与える心の中に語りかけるような内的な要素も併せ持っている鐘でもある。 そして鐘は風や人の手によって形を変え、景色を移ろわせながら人々が自然と集まる鑑賞スポットとなり、その音は屋上庭園の静寂を際立たせ、今までにない魅力を伝達する装置となるのである。
本提案は、ふんわりと揺れるその動きの面白さや音の連なりが生むシンプルでピュアな楽しさに価値があると感じている。その一方で、鐘を鳴らす体験の、人の心に刺さるような新たな気持ち、神聖な気持ち、自省の気持ちなど精神に訴えかける効果があることに大きな意味を感じている。そのような「目に見えない何か」を設計することはモノ志向の強いアーティストの展示の中で唯一の建築クラスタである我々がつくるだけにとどまらないソフト的な要素も孕んだ作品を提示することに当初から意義を感じて計画した。
作品概要
高さ約4mの三角錐に取り付けられた1万個の鈴で構成されている。鈴はある程度、引張力の担保された釣り糸に通し6φのスチールフレームに括りつける。1万個の鈴の重さに対して、6φの細いスチールフレームが自立するギリギリのラインを現場で調節していった。出来上がった鈴の集合からなる鐘は、微風でも揺らぎクニャクニャと動き続け、鳴り続ける不思議な構築物となった。三角錐の硬い形が無数の鈴によって崩れ、柔らかな形状となった本作品は優しく楽しそうな印象を生み出している。
鈴でなる鐘
アーツチャレンジ2019選定作品
所在地:愛知芸術文化センター10F屋外庭園
用途:インスタレーション
協力:アイチ金属
協賛:中本製作所
設計期間:2018.8-2019.1
施工期間:2019.2