あつたnagAya

割り算の再開発
引き算のデザインとはよく言うが、これは割り算の建築だと思う。規模を減らすだけでなく、機能を割ってエリアに分配するような、多面的な繋がりを生む開発になったのではないだろうか。
愛知県名古屋市熱田区に位置する名古屋鉄道神宮前駅西側街区の再開発プロジェクト。熱田エリアは名古屋の観光地のひとつだ。名古屋鉄道が約7000㎡の敷地にあった既存大型商業施設を駅舎機能を残しつつ減築。そして、空いた場所に木造平屋3棟を建てた。観光商業施設機能と、通勤通学利用者や地域住民も日常的に活用される場所が求められた。また商店街も隣接するため、敷地内で完結しないエリアで回遊性のある建ち方も問われた。再開発というと低層に商業施設、高層にオフィス・ホテルのイメージがあるが、それとは一線を画すプロジェクトである。
120mのファサードを道路に向けた長い建物が特徴である。車の往来も多く、車で通行する人も立ち寄りたくなる建築を目指し、敷地の長さを生かした配置とした。またJR熱田駅方面へ向かう商店街との連続性を出すため、横断歩道の位置や通り抜けを意識し、3棟のバランスを考慮した。
A棟は既存大型商業施設の形状を踏襲した。解体時は鉄骨鉄筋コンクリート切断面が露わで、駅舎外観デザイン監修時はそのまま活かすことを構想をしていたが、駅という公共性の高い施設から断念。A棟では解体時の半端に切られた柱梁の形から断面寸法及び柱スパンを決め、骨太な木造建築を目指した。
BC棟の反復する波屋根は各店舗が顔を持つことを意識した。日本の伝統的な木造建物をイメージソースとしながら、ここならではの体験を嗜むには名古屋らしさが必須と考え、写真家の大山顕が名付けた「名古屋根」に行き着いた。これはホテルや店の敷地から歩道に飛び出ているテント屋根のことで、サイン機能や道路から雨に濡れずに入れるもてなしの精神、そして目立つことに名古屋らしさを再認識した。商店街と連続した小店舗の繋がりによって賑やかさを出すためにも小割りの波屋根を連続させ、名古屋根のような象徴としている。B・C棟東側は、隣接商店街屋根の高さに揃え一体感を持たせ、商店街に掛かる赤黄緑の日除け(だと思われる)を意識したテントを店舗の看板として取り入れ、ここらしい屋根となるようにした。四角錐の木造フレームは往来が多い条件の中、人がぶつからないブレースを考えた結果、下向きに広がる向きを採用した。構造体に座面を設け居場所化し、賑やかに利用されている。また立面4面に加え、駅ホームや歩道橋から見られる5面ファサードであることも意識し、設備機器が露呈しないように設備配置にも注力した。
2024年9月に第1期A・B棟、12月に第2期C棟が開業した。神宮前駅西街区は「おとなの行きたいまち」を目指し、あつたnagAyaは「地域で継がれる魅力を嗜み、再発見できる場所」を目的としている。食べ歩きや地域の文化、ここならではの食事を楽しめる店が軒を連ねる。ワゴン等も出店し、縁日のような賑わいが生まれた。今後は駅動線の改修、交番やロータリーの整備などが控えている。
あつたnagAya
所在地:愛知県名古屋市熱田区神宮3-6-53(A棟)、51(B棟)、42(C棟)
用途:店舗
設計施工:エイトデザイン
構造:海野構造研究所
電気:Ys’ESD
機械:大塚設備計画
設計協力:dddessin
写真:ToLoLo studio
敷地面積:A棟:942.28m2、B棟:1,496.03m2、C棟:914.50m2
延床面積:A棟:449.02m2、B棟:347.51m2、C棟:457.22m2
規模:木造平屋
設計期間 2023.7-2024.4
施工期間 2023.9-2024.12