樹齢670年 巨樹の保存活用

令和2年7月豪雨により岐阜県瑞浪市大湫町にある、樹齢670年の御神木・大杉が根元から倒れました。中山道・大湫宿の街道筋にあり、町民にとって心の拠り所だった大杉。人口350人に満たない小さな宿場町に横たわる巨大な杉をどのように扱うか考え、災害としての撤去復旧作業と町のシンボルとしての保存活用を行ったプロジェクトです。

舞台である大湫町は、豊かな山と湿地の境に位置し、中山道の宿場としての景観と相まって美しい姿を見ることができます。大杉のある神社の側には渾々と水が湧き、人々の生活を助けてきました。それらの象徴として地域住民を見守ってきた大杉ですが、残念なことに倒れてしまいます。地域住民は、大きな喪失感を胸に、倒れた大杉の巨大な姿に圧倒されながらも今後の大杉について議論を重ねました。その中で、大杉が大湫町の新たなシンボル・誇りとなる保存活用をしたいということが明確になります。この地域住民の大杉への思いを受け、私たちは単純に大杉をモニュメントとして立て起こすだけでなく、未来に向かい共に歩む存在として新たなカタチを考える樹齢670年の巨樹の保存活用プロジェクトをスタートさせました。

大湫町にとって大杉の倒木は想像を超える大きな出来事でした。大杉の倒木からこれまで、大湫町では町民が中心となり、専門家や、行政機関の支援を受けながら、復興に向けて歩んできました。倒木直後から多くの町民が集まり、額に汗してできることを行う姿がありました。資金面においても、多方面からの寄付や募金、クラウドファンディングを通じた全国からの支援を募りました。大杉に対峙すると自然と何かできることがないかを考え、人と人の繋がりや支え合いが生まれていきました。大杉を取り巻くたくさんの動きこそ、私たちが未来に繋げていかなくてはならない大杉のアイデンティティーと捉え、「形」だけではない保存活用工事を行うことを、町民とのディスカッションを重ねて周知していきました。私たちが提案したものは、ゆっくりと劣化(変化)していく大杉と共に生を重ねる、保存の概念を再定義する全国的にも稀有な保存活用プロジェクトです。劣化する要素を徹底的に排除し、延命措置を取ることもできますが、時間をかけて土に戻っていくことがこのまちにとっては最適だと考えました。そこで雨がかからないよう、風景に馴染み、メンテナンス効率が良いコールテン鋼の屋根をかけ、全体が朽ちていく数十年、数百年先まで住民が見守れるような設えとしました。これまで町を見守ってきた大杉、これからは住民が守り続けていきます。

「 コールテン鋼の屋根」
300年後の風景を考えることは 難しい要望でしたが、なるべく余計な要素を減らすことを心がけました。屋根はコールテン鋼という材料を選定していますが、メンテナンスが限りなく少なく、時と共により風景に馴染んでいきます。形は正円として、方向のない純粋な形態で目立たないながらも境内に厳格さを与えています。

「35000kgという重さとの対峙」
5mで切った状態でも35トンの重さでした。寝転んでいた状態から90度回転し立て起こし、さらに基礎に載せる工程です。限られた敷地で大きなクレーンの動きの計画、そして実際の施工では少し傾いているだけでも基礎と接触し、共に損傷する危険がありました。一度目の差し込みでは微妙に傾き、うまくはまらず、一度地面に置いて、傾きを調整。二度目でうまく入りましたが、6時間を要する緊張感のある現場でした。

樹齢670年 巨樹の保存活用

名 称:樹齢670年の大杉保存活用工事 公募型プロポーザル
所 在 地:岐阜県瑞浪市大湫町398
施工:造家工房
ランドスケープ:ランドスキップ、庭とくらし くさまくら
構造設計:EQSD
まちづくり:サステナ 園原麻友美
コミュニティデザイン:LifeWork 内海慎一
写真:ToLoLo studio
設計期間:2021.05-09
施工期間:2021.10-2022.03